ドクター・フー50周年ドキュドラマ”An Adventure in Space and time”同時再生実況ツイートまとめ

5月23日(土)7pm(日本時間翌3am)より、マークが脚本・製作を担当したドクター・フー50周年ドキュドラマ”An Adventure in Space and time”の同時再生企画が開催されました。
マークと演出家ウァリス役のサシャ・ダワンがツイッター実況で参加。
この記事では舞台裏を語るマークのツイートを訳してまとめています。
ツイートの下が日本語訳、続いて青枠の中が解説です。

「終わりには程遠い」

※1代目ドクターのエピソード”Tenth Pranet”でのセリフ

「明日の夜7時、”AAiSaT”同時再生にみなさんが参加できることを願っています」
「今夜7時!」
「”AAiSaT”は本当の意味で愛するからこそやった仕事だった。僕は3代目ドクターで育ったけど、神聖な作品の中で語られるDW初期の魔法にはいつも心を奪われる。(初期のメイキングがあるのは知っているけど、これは僕なりのメイキングです)
「もちろん、バーンズ・コモン! このシーンは元々、デヴィッド・ウィテカーの”Dr Who and the Daleks”のように、霧の中での衝突から始まった。実際の撮影現場はウィンブルドン・コモンで、‘The Massacre’の最後でターディスが建てられた場所でもある」

※冒頭の車のシーン。”Dr Who and the Daleks”は1964年に出版されたデヴィッド・ウィテカー作のドクター・フー小説。ドラマ版とは異なり、コンパニオンがバーンズ・コモンで起こった交通事故で出会うシーンがあります。”The Massacre”は、1966年に放送された1代目ドクターのエピソード。

「僕はオリジナルのサイバーマンを今作に入れようと決めていて、ポール・マクナマラ(小道具担当)がオリジナル・チームと同じくらい素晴らしい仕事をしてくれた。喫煙シーンは”Revenge…”のサイバーマンの写真に触発された」

※”Revenge…”は4代目ドクターのエピソード”Revenge of the Cybermen”?

「想像の通り、ウィリアム・ラッセルの出演は特別だった。
彼は役の元になった守衛を覚えていたんだ!
これが協力的で頭の切れる彼とイアン第2世代、ドクター・フー一族から迎えた素敵なジェイミー・グローバー」

※ウィリアム・ラッセルはかつて1代目ドクターのコンパニオン、イアン役でドクター・フーに出演。”AAiSaT”には守衛役で出演しています。
ジェイミー・グローバーは”AAiSaT”の中のウィリアム・ラッセル役として出演。彼の父ジュリアン・グローバーはリチャード一世役などでドクター・フーに出演している「ドクター・フー2世」です。

「シドニーはとても多彩なキャラクターで、キャスティングが大変だった。ジョン・リスゴーやジェームズ・ガンドルフィーニでも話し合っていたんだ。
そしてブライアン・コックスを”The One Show”で見て… バン!バン!バン!
ブライアンは休暇の予定を変更してやってくれることになった。彼はテレビジョン・センターにも温かい思い出を持っていたんだ」

※”AAiSaT”の撮影場所であるテレビジョン・センターは1960年代からBBCの名物番組の数々が収録されたスタジオ。このドラマが撮影された直後の2013年に一度閉鎖、再開発中。

「ああ、ヴェリティ! 彼女と少し知り合うことが出来てラッキーだった。大いなる力でありドクター・フーの忠実な友。ビジョン・ミキサーのクライヴ・ドイグが彼女の「赤いワインのキス」について詳しく教えてくれた。(続く)
「(続き)ヴェリティ、ウァリス、シドニー、ビルを主要キャラクターにするべきだとはっきりした。テリー・ネイションとレイ・キューシックのサブプロットや、トニー・ハンコックのカメオ出演もあったんだよ!
後にジェシカ・レインが新生児誕生の専門家になったんだけどね…」

※テリー・ネイションはドクターの天敵ダーレクが初登場するエピソード”The Dalek”の脚本家。そのダーレクをデザインしたのがレイ・キューシック。トニー・ハンコックは当時の人気俳優。ジェシカ・レインがドラマ「コール・ザ・ミッドワイフ」に助産師役で出演していたため「新生児の誕生」と「ドクター・フーの生みの親」を引っ掛けている。

「『ガラス瓶の中の脳みそ』。想像してみて!」
「あの大道具部屋はドクター・フーのものでいっぱいだった!スウィートヴィルの門も入ってる!」

※「スウィートヴィル」はマークが脚本を書いたドクター・フーの「深紅の恐怖」に出てくる共同体。

「ジェシカ・カーニーは、細かい部分で大きな助けになってくれた。彼女は祖父母に『ジュディ』や『ジュディ・プディ』と呼ばれていたんだ。ヘザー・ハートネル役に偉大なレスリー・マンヴィルを迎えたことは幸運だった。彼女は古い友人で、ビルの辛抱強い妻に素晴らしい儚さをもたらしてくれた。

※ジェシカ・カーニーはウィリアム・ハートネルの本当の孫娘。BFIで行われたプレミア上映でもマークらと共に登壇していました。

「これは番組から一番最初にツイートしてみんなが興奮した画像!
ここで見えているのはデヴィッドの目だけ、でもビルの目にすごく似てて不思議。
僕はというとテレビの中でしゃべる会話を急遽書かなければならなかった。’I only arsked!’」

※’I only arsked!’はウィリアム・ハートネルが出演したシットコム”The Army Game”の中で出てくるキャラ、ポップルウェルのキャッチフレーズ。同名のスピンオフ映画も作られている。

「ドクター・フーの誕生に関わった人々を公平に扱おうとするのは信じられないほど大変だった。初期の台本にはデヴィッド・ウィテカーに”バーニー”・ウェバー、”悪役”のジョアンナ・スパイサーも出てきた。最終的にマーヴィン・ピンフォールドが彼らの多くを象徴する存在になった」

※デヴィッド・ウィテカーは脚本家。今作で描かれる第一話”An Unearthly Child”から台本編集者として関わっている。C. E. “バーニー”・ウェバーも脚本家で、第一話の企画に関わっている。ジョアンナ・スペンサーはドクター・フーの発足に関わったアシスタント・コントローラー。欧州放送連合のBBC代表も務めている。BBCの番組ページに紹介文あり。

「ジェフ・ローレがマーヴィン役で出演してくれたのも嬉しかった。子供の頃、彼の”Billy Liar”が大好きだったし、もちろん彼は永遠にPlantagenetだ! よく言うだろ、『テレビジョン・センターは自らを葬る』。彼の発明したオートキューの最後は”The Dambusters”の似た場面に影響を受けた。

※ジェフ・ローレは5代目ドクターのエピソード”Frontios”で惑星の住人Plantagenet役で出演。”Billy Liar”は1970年代にITVで放送されたシットコム。
マーヴィン・ピンフィールドは劇中で紹介された通り、初期のプロンプターの発明者として知られている。”The Dambusters”は1955年に公開された英国の戦争映画「暁の出撃」?

「最初にデヴィッド・ブラッドリーをビル・ハートネル役に、と提案したのはエドガー・ライトだった。彼の言う通りだったよ。デヴィッドは昔ながらのバラエティからRSCまで素晴らしい背景を持った面白い人だ。彼のファンであり、一緒に働くのは喜びだ」
「サシャ・ダワンもまたこの仕事での喜びの一つ。一体彼に何があったんだ!?
これはとても感動的な読み合わせでの彼と、ウァリスの『ドラマシリーズA』のためのノートや企画を収めたオリジナル・ファイル。

※サシャ・ダワンはこのドラマ出演の後、13代目ドクターのエピソードで”あの役”を演じています。

「トビー・ハドク警報! ヴェリティとウァリスのアウトサイダーの立場を強調することは僕にとって非常に重要だった。とても若く、変わっていて、才能溢れている」

※トビー・ハドクはスタンダップ・コメディアンで俳優。ドクター・フーの大ファンで番組をテーマにした舞台”Moths Ate My “Doctor Who” Scarf”を成功させ、DVDのコメンタリーで進行役を務めたことも。今作ではウァリスの注文を無視するバーテンダー役で出演。

「『たくさんの人たちが番組の誕生のために立ち会って、一日中ここにいる!』
人や出来事や時間をまとめるのは脚本家の仕事…これほど辛いことはない。
ドクター・フーのファンとして、重要な人物を除外するのは二重に難しかった」

※レストランでヴェリティがビルに番組の説明をするシーン。

「このモンタージュ、大好き」

※オープニングの合成映像について。

「ジェシカは赤ちゃんの取り上げ方がかなりうまくなったね!」
「チーム! ジェイミー、ジェマ、クラウディア(彼女は初仕事、ジェシカ・カーニーがエージェント!)はまさに完璧なラス、ジャクリーン、キャロル・アン。
記者会見の場面を繰り返して、ビルの嫌悪感の高まりを表す仕掛けが好きだったよ」
「おじいちゃん :)」

※ウィリアム・ハートネルの孫娘ジュディは彼を’Sampa’と呼んでいる。

「もちろんこのリハーサルはチャーチホールでやるはずだったけど、余裕がなかった!」

※パイロット版のリハーサルシーン。

「宇宙船の中!」

※ウァリスが「ここでテープを止めて、宇宙船の中に入る」と出演者に説明するシーン。

「僕らの素晴らしい演出家からメッセージ:
『バン!バン!バン!
テリー・マクドナーから作るのと同じように楽しんで見てくれているファンへ!』
すべてを実現してくれた(製作の)マット・スティーヴンス、カロ・スキナー、リチャード・クックソン、そしてスティーヴン・モファットにも感謝」
「デイブ・アロースミスと彼のチームの素晴らしい仕事に大感謝。
ターディスに足を踏み入れた人は皆息を飲んだ。ピーター・ブラチャッキも驚いただろう。
多分、喜んだだろうね!
それにあの廃品置場のゲート…みんな震えたよ!」

※デイブ・アロースミスは今作のプロダクション・デザイナー。ピーター・ブラチャッキは劇中にも登場するターディスの内装を担当したデザイナー。

「これほど美しいものはない!」

※ついにターディスが完成したシーン。

「撮影初日に偉大なウァリス・フセインを迎えられて光栄だった。
彼自身とその友人たちが再現されるのを見るのは非常に感動的な経験だ。
彼の見事な仕事がなければ、この作品は実現しなかっただろう。
元祖、と言っていい」
「第1話はここまで酷い状況にはならなかった!
スプリンクラーが回ったのは‘The Aztecs’だと思う」

※第一話撮影中にターディスのドアが開いたり、スプリンクラーが回り始めるトラブル続きのシーン。”The Aztecs”は1代目ドクターの第6話(シリーズ)。

「バカな!」

※撮り直し宣告のシーン?

「このシーンのデヴィッドとジェシカは素敵だ」

※撮り直しの報告をするヴェリティがビルを励ますシーン。

「気を強くね!
放射能測定器は点滅するはずだった! いつも気になる」

※第一話の放送がやっと決定しヴェリティとウァリスが安堵するシーン。ターディスの放射能測定器の”危険”部分はオリジナルでは点滅しているが、今作では点滅していない。

「暗殺のライフルの組み立てとダーレクの描写を対比させるのは”AAiSaT”ではじめにあったアイディアの一つだった。
とても効果的で物憂げな瞬間だと思う。
ショーン・バレットのアナウンスで父親が息子を抱きかかえる姿にいつも胸を打たれる」
「この場面でのジェシカの輝きが好き。ヴェリティには手出ししない!」

※ヴェリティがシドニーに堂々と立ち向かい、第一話の再放送を要求するシーン。

「見て! 美しいダーレクたちだ! ニコラス・ブリックス警報!」

※ダーレクが初登場するシーン。俳優で製作者のニコラス・ブリックスは21世紀のドクター・フー新シリーズでダーレクやサイバーマンの声を担当していることで知られています。今作では当時ダーレクの声を担当していたピーター・ホーキンスを演じています。

「キャロル・アン! 『テレビが始まったわよ!』」

※1代目ドクターのコンパニオンで孫娘を演じたキャロル・アン・フォードは、遊びに出た子供たちを呼ぶ母親役でカメオ出演しています。

「テレビジョン・センターに祝福を。僕らは古い形のその場所で撮影した最後のドラマだった」

※ダーレク回が成功して喜ぶヴェリティがウァリスと抱き合うシーン。

「本物のドクター・フーのスタイルで、廃品置場の階段をマルコ・ポーロのセットに再利用した!」

※1964年放送のエピソード”Marco Polo”の撮影場面。

「『昨夜ダイヤルをいじったのを見た。だからどんな状況でも触ってはならないものを教えようと決めたのだ』
デヴィッド・ウィテカー作の”Dr Who and the Forbidden Subjects”。
クライブ・ドイグの引き出しの中で見つかった!」

※ウァリスが番組を離れ、ビルが朗読をするシーン。クライブ・ドイグはBBCのビジョン・ミキサーとして当時ドクター・フーに関わっていたプロデューサー。

「年刊ドクター・フーのアートワークを作る余裕がなかったので、自分のために依頼した。
ショービジネスのルールその1:自分の金を番組につぎ込むな!
ショービジネスのルールその2:自分の金を番組につぎ込むな!」
「もちろん、僕らの何人かは以前にウェストミンスター橋でダーレクになったことがある」

※ドクター・フー30周年を記念した番組”More Than 30 Years in the TARDIS“でウェストミンスター橋のダーレクが再現されることになり、操縦するスタッフ不足のため俳優組合に入っていたマークがダーレクに入ることが出来たらしい。

「『一発で書き換える』それこそ作家だ!」

※降板するキャロル・アンを引き止めるビルのシーン。

「どのくらいだ、ドクター? どれほど長く生きている?」

※4代目ドクターの「モービアスの脳」からの引用。このストーリーは13代目のシリーズにも影響を与えていると言われています。

「誰もが共感できる人間ドラマとして物語が成り立つことが極めて重要だった。
もちろん、僕らはみんな取り替えが効く…」
「Zarbiも欲しかったな。マシュー・スウィート警報!」

※マシュー・スウィートは評論家で作家。マークの対談の聞き手役としても頻繁に共演しています。彼が演じているの“The Web Planet”に登場する蜂のようなヒューマノイドMenoptera。Zarbiは蟻型のインセクトロイド。

「たくさんの旧友との別れがある。元々ヴェリティが”Adam Adamant”の製作に移ると語ることになっていたが、現代社会に合わない時代遅れの男の話をするのは賢明じゃないと気付いた。
『また会う日まで』…たまらない」

※”Adam Adamant Lives!”は1960年代に冬眠状態から目覚めた19世紀生まれの冒険家が主人公のドラマ・シリーズ。ヴェリティやシドニーが製作に関わっています。

「『ツイードとタバコの煙』の1963年と古代中国の栄光の対比、そして驚くべきスザンヌ・ケイヴと(BAFTA受賞の!)ヴィッキー・ラングの才能が結実。美しい仕事、だけどピーター・パーヴスの『トイメイカー』セーターにはかなわない!」

※スザンヌは衣装デザイン、ヴィッキーはメイクアップ担当。ピーター・パーヴスはドクター・フーでコンパニオンのスティーブン・テイラーを演じた役者。”The Celestial Toymaker”と言うエピソードで画像のセーターを着用。

「抜け目のない人の声のカメオ出演です」

※どうやら調整室からビルに指示を出す演出家はマークが演じていたようです。

“The Massacre“からのこの短いセリフが雰囲気にぴったり合っていた。
『視線の先にたくさんの人が踊っている』知ってる人たちのために」

※”The Massacre of St Bartholomew’s Eve”は1966年放送のストーリー。

「僕は失われた物語の一部を再現できるかもしれないという期待でワクワクしていた。
‘The Myth Makers’, ‘Masterplan’ そして ‘The Masters of Luxor’といった物語が初期の台本に書かれていたが、予算が許さなかった。
サラ・キングダム役のジーン・マーシュと再会する機会を失ってしまったのが一番残念」

※ドクター・フーには幾つかの映像が残っていないストーリーが存在する。サラ・キングダムは失われたエピソードの一つ”The Daleks’ Master Plan“に登場する宇宙秘密諜報部のエージェント。

「『歴史は変えられない、一行も!』もちろんこれは”The Aztecs“からの引用で、続くすべてが真実であると説明するのにちょうどいい。
この企画は何年も書きたかったんだ。これは2002年の初期のあらすじ」

※”The Aztecs”は15世紀のスペインを舞台にした1964年6月放送のストーリー。

「初期の草稿では、ビルの代理人(で義理の息子)であるテリー・カーニーや、たくさんのパブのシーンが含まれていた! 草稿1ではコテージでものを整理している成長した孫娘ジュディの構想があったり、草稿2では”Points West”のインタビューを使っていた。

※”Points West”はBBCの地域ニュース番組。

「『幸運の女神よおやすみ、もう一度微笑みかけてくれ、運命の歯車を回せ」」

※劇中に登場する「リア王」の引用。

「『離れたくない』…また、たまらない」

※自宅で降板を悲しむビル。10代目ドクター再生前のセリフの引用でもあります。

「エドマンド・バットの素晴らしい楽曲は、ハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」のワルツに影響を受けたもの。「時の渦巻き」のような感覚があると、僕から提案した。ロマンティックで、でもわずかに気まぐれで制御不能な感じが、ターディスっぽい」
「さあ来た… このアイディアを思いついた時、僕は泣いた」

※11代目ドクター、マット・スミスのカメオ出演。

「最後の瞬間ギリギリまで、マットが現場でカメオ出演してくれることを願ってた、でもスケジュールで不可能だった。
だからあれは僕の手なんだ!
“Plabet of the Daleks”でジョン・パートウィーがやってたことを思い出してみて!

※マットのカメオ出演は合成で現場にはおらず、ターディスを操作する手はマークだった!と言うことですね。確かに3代目ドクターの”Plabet of the Daleks”の中で、ターディスに両手を置き、テレパシーでメッセージを送るシーンが出てきます。

「そして、もちろん最後はオリジナルで締めくくらねばなりません。
これを実現させてくれた皆さんに心から感謝しています。誇りに思います。
『ドクター? みんなを元気にしてくれるの?』
そうだよ♥」

※“A Doctor?…”は孫娘のジュディのセリフです。

ドクター・フーの誕生物語 “An Adventure in Space and Time”(テスト投稿)

ドラマ「シャーロック」の製作者、スティーブン・モファットとマーク・ゲイティスが、共にイギリスが誇るSFドラマ「ドクター・フー」の脚本家であり、撮影現場であるカーディフに行く列車の中で2人がドラマの構想を話し合ったことで「シャーロック」が生まれたというエピソードは有名ですが、その「ドクター・フー」がどうやって始まったのか? ということまでは知らない人が多いと思います。

「ドクター・フー」は放送を開始した1963年から、途中中断した時期はあるものの、今なお新シリーズが作られています。
その50周年にあたる2013年に、この「シャーロック」の2人が製作総指揮となり、ドクター・フーの誕生を描くドラマを作り出しました。
それが“An Adventure in Space and Time”(以下AAiSaT)です。

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「ドクター・フー」は主人公の宇宙人・ドクターがその肉体を”再生”させることで、役者を変えながら続いているドラマです。
AAiSaTは初代ドクターを演じたウィリアム・ハートネルや、女性として当時としては異例の抜擢を受けた初代プロデューサー、ヴェリティー・ランバートのエピソードにスポットを当てています。

もともと、この企画はマーク・ゲイティスが番組の40周年のために温めていた企画でしたが、当時は予算もスケジュールの割当も出来ず、企画は却下された経緯がありました。10年後の50周年という大きな節目に、ようやくこの企画が実現することとなったのです。

「ドクター・フーの物語は、すなわちテレビの物語。
 50周年は、宇宙船ターディスがどうやって発進したか遡って見に行くという
 最も重大な旅をするにはふさわしい年だ」
(スティーブン・モファット談)

ただ、マーク・ゲイティスが脚本を練って行くにあたり、製作に携わった人々とその逸話があまりに多いため、全ての人物を取り上げきれないという問題がありました。

「これはドキュメンタリーではなくドラマだから少数のキャラに集中しなければならない。
 登場しない人物がいることに反対意見もあるだろうね」(マーク・ゲイティス談)

これは幼い頃からドクター・フーを愛し続ける筋金入りのファン、つまり”フーヴィアン”としての、マーク自身の心を痛めつけることになりました。
しかし、彼はその細部への愛情をかなぐり捨てて、ドクター・フーを知らない視聴者でも楽しめるドラマ作りを目指したそうです。
(例えば、”フーヴィアン”にはよく知られている最初期のスクリプト・エディターだったデヴィッド・ウィテカーのキャラクターは、プロデューサー補のマーヴィン・ペンフィールドに吸収され、脚本家のテリー・ネイションと、デザイナーのレイ・キューシックの関係を通して描くはずだった、ドクターの敵=ダーレクの誕生についても削られることになりました。)

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「”An Adventure in Space and Time”は
 「ドクター・フー」への私からのラブレターですが、
 私の望みは、この番組が称えられ、誰にでも興味を持ってもらえるような
 人間ドラマを作ることでした」(マーク・ゲイティス談)

そうしてダイヤから輝きを削りだすように生まれたAAiSaTは、「ハリー・ポッター」シリーズ、「ブロードチャーチ」等で知られるデヴィッド・ブラッドリーを初代ドクター、ドラマ”Call the Midwife”のジェシカ・レインを初代プロデューサー役に迎え、ドクター・フー50周年記念番組の一つとして放送されたのです。

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1963年、ロンドン。
BBCの製作アシスタントとして働くヴェリティー・ランバートはテレビ業界から出て行くべきか迷っていました。
自分自身に一年の猶予を設けて将来を考え直そうとしていたそんな時、ドラマ部門の上司、シドニー・ニューマンから新しい子供向けSFドラマの製作者に指名されます。

アシスタントではなく、プロデューサーとしてテレビジョンセンターに出勤したヴェリティー。
お守り役の先輩プロデューサーを付けられ、意見に聞く耳をもたれない状況に苛つきますが、番組を担当することになった、同じように局内で肩身の狭い思いをしているインド系の若手監督ウォリス・フセインと意気投合します。

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そして、ヴェリティーとウォリスは主役のドクター役にオファーした俳優、ウィリアム(ビル)・ハートネルと面会することに。
ヴェリティーの説明するドクターの役のイメージは
“「ナルニア国物語」のC・S・ルイスと「タイムマシン」のH・G・ウェルズがサンタクロースと出会う”
ポリスボックス型の船に乗って宇宙を旅するという宇宙人=ドクターは舞台役者として活躍した後、厳格な軍人の役が多かったビルにとって、今まで演じたことのない類のキャラクターでした。
ヴェリティーたちはビルに番組がいかにBBCに期待をされているかをアピールしますが、実は、番組は狭いスタジオをあてがわれ、脚本は未だ進行中、宇宙船であるターディスの内部も未完成の状態でした。

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出演を決めたものの、ターディスの内装が一向に出来上がらないことに不満を抱くビル。彼の過去作や演技力を誉めることでなんとか機嫌を取ったシドニーは、出演者やスケジュールを思うように扱えない新米ヴェリティーに対して、
「プロデューサーになれ!」
と叱咤します。鼓舞されたヴェリティーは、早速デザイナーの元へ行き、ようやくターディスの内装のアイデアを得ることに成功するのでした。

撮影中、セットの扉が勝手に開いたり、スタジオ内でスプリンクラーが回ったり四苦八苦しながら作り直しを経てやっと完成させた第一話。
その初回放送の日、運悪く、ケネディ暗殺事件が発生します。
視聴者はドラマではなくニュースに釘付け。影響を受けた「ドクター・フー」の視聴率は低迷し、番組は存続の危機に立たされます。

その一方、ドクターの脅威となる敵キャラ、ダーレクが登場するエピソードの脚本が完成。シドニーや上層部は”虫眼のモンスター”の採用に反対するのですが…

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前半はヴェリティーのプロデューサーとしての奮闘に焦点が当てられ、後半はドクターとして視聴者の人気を得るようになったビルの、役者としての苦悩を映し出します。
酒と煙草を愛しながら年を重ねたビルは、老齢と病の影響で台詞を覚えることもままならない状態になっていました。
それでも、ドクターのいない「ドクター・フー」はありえないと、ヴェリティーやウォリスが番組を去った後も、ドクターとして出演を続けようとするのです…

冒頭、世界初の女性飛行士ワレンチナ・テレシコワがボストーク6号で宇宙へ旅立ったニュースをヴェリティーがテレビに駆け寄って見る様子と同時に、月が上ったBBCテレビジョンセンターが写しだされるシーンがあります。
宇宙への憧れ、女性の社会進出…
時代の変革の中で、「ドクター・フー」が今までにない新しい番組として生まれたことが、このドラマの中から感じ取れるようになっているのです。

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数多くの番組を生み出し、現在は売却されお役御免となったテレビジョンセンターや、マルコーニ社の撮影用カメラを始めとした、この作品のために当時とそっくりに用意された撮影スタジオ等、60年代のノスタルジックな風景やテレビ局の内側を楽しめるのもこの番組の見所です。

「素晴らしい複製ターディスの中に初めて足を踏み入れると、
 (驚愕で)僕は口の中にマフラーを詰め込まなければならなかった。
 とても興奮したよ!」(マーク・ゲイティス談)

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再現されたセットの出来映えはマークだけではなく、現場を訪問した当時の出演者も50年前に戻ったと錯覚してしまいそうな程の完成度だったそうです。
現場を訪問した出演者は、ドラマの中にも端役として登場しています。
例えば、当時ドクターの孫娘スーザンを演じたCarole Ann Fordは、ダーレクの放送日に子供を呼びに出る母親の役。
スーザンの通う学校、Coal Hill Schoolの科学教師でドクターのコンパニオン(旅の同行者)となるイアンを演じたWilliam Russellは、BBCの駐車係として登場しています。
(Coal Hill Schoolは最新シリーズ7〜8に登場するドクターのコンパニオン、クララが教師をしている学校でもあります。)

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ちなみに、ドクター・フーの過去の出演者とは異なりますが、マークとはコメディ・チーム「リーグ・オブ・ジェントルマン」の仲間であるリース・シェアスミスが、ビルからドクターを引き継ぐことになる2代目ドクター=Patrick Troughtonに扮しています。
リースはマークのような”フーヴィアン”ではありませんが、彼が脚本を担当したドクター・フーのスピンオフ作品にも出演しています。
マークは以前から彼を2代目ドクターとしてこの企画に出演させようと考えていたそうです。

さらに、マークの実生活のパートナーであるイアン・ハラードも、ダーレク登場回の監督Richard Martinの役で出演しています。

そしてAAiSaTの終盤、重要なカメオ出演者が登場するのですが、
ここでは敢えて触れません!
この物語の中で最も美しく、最も感動的なシーンになっているので、是非本編でご覧頂きたいです。

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「AAiSaTは愛から生まれました。
 一コマ一コマにそれが現れていることを願います」(マーク・ゲイティス談)

番組を作り出したスタッフとビルの熱意、そしてドクターの再生…
感動の涙を誘うだけでなく、現在も続いている「ドクター・フー」の未来をも感じさせるこの作品は、2013年11月22日にBBC TWOで放送後、
放送映画批評家協会賞英国アカデミー技術賞(衣装デザイン、編集、メイク)英国アカデミー賞シングル・ドラマ部門ヒューゴ賞国際エミー賞Broadcast Awards等にノミネートされました。

マークの望んだように、AAiSaTは”フーヴィアン”のみならず、ドクター・フーを詳しく知らない視聴者からも愛される作品となっています。
この記事を読まれて、まだ見たことがないという方にとっても、
いつか大切な作品になればいいなと、AAiSaTを愛する私も願うばかりです。

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■ソフト情報■(2014年12月現在)
“AAiSaT”は日本盤は発売されていませんがAmazon.co.jpで輸入版が購入可能です。
DVD(米国盤?リージョン1)
ブルーレイ(米国盤・リージョンA)
Amazon.co.ukからは以下から。
DVD(英国盤・リージョン2)
50周年記念コレクターズ・エディション DVD BOX(英国盤・リージョン2)
50周年記念コレクターズ・エディション ブルーレイBOX(英国盤・リージョンB/2)
(英国盤のブルーレイはBOXのみの取り扱いとなっています。)

【注意】リージョンについて
・DVDの場合、日本のプレイヤーで視聴可能なソフトはリージョン2、映像方式はNTSCです。
 米国盤はリージョン1のため再生不可、英国盤はリージョン2ですが映像方式がPALのため再生不可。
 ですが、米国盤・英国盤ともにPCでの再生は可能なはずです。
・ブルーレイの場合、日本のプレイヤーで視聴可能なソフトはリージョンA。
 米国盤はリージョンAのため再生可能、英国盤はリージョンBのため再生不可。
■参考資料■
EXCLUSIVE: Mark Gatiss interview – Blogtor Who(Jul 6)
An Adventure in Space and Time: on-set exclusive with the director and producer(Nov 12)
Mark Gatiss on ‘An Adventure in Space and Time’: “It’s born of love” – Digital Spy(Nov 13)
Mark Gatiss: An Adventure in Space and Time is my love letter to Doctor Who(Nov 21)

※この記事は拙ブログ「ドクター・フーの誕生物語 “An Adventure in Space and Time”」を転載、Tumblr用に編集したものです。