「英国万歳!」イントロダクション和訳

アラン・ベネット(劇作家)「大学で歴史を学んだので、ジョージ3世のことは少し知っていました。そして、摂政危機と呼ばれる、最初に精神病の症状が出た時のことや、それがのちに再発するものの比較的短かったことも知っていました。ある意味、それは劇作家への贈り物で、始まりと中間と終わりがある。私は筋立てが得意ではないので、個人的に、プロットがすべてそこにあるのはありがたかったのです」

(稽古場風景)
ジョージ3世「余は其方のリンカンシャーの気のふれた患者ではない! 都会の、都市の、お、お、王家の…」

マーク・ゲイティス(ジョージ3世役)「素晴らしい芝居だし、もちろん輝かしい役です。アランは僕の子供時代から大きな影響を与えてくれました。特にこの芝居のアランの意見と歴史的記録と人間的な物語のコンビネーションが気に入っています。

【世界がひっくり返った】

アーサー・バーンズ(歴史家)「ここが王室図書室です」

【王室図書室 ウィンザー城】

アーサー「ジョージ3世に関連する資料の中から、あなたに見せたいものを選び出してみました。これらはすべて現物です」
マーク「すごい」
アーサー「ジョージの病について少しと、人としての彼について語っているものです」
マーク「素晴らしい」
アーサー「複雑なキャラクターですからね」
マーク「急にすべてがとても生き生きとして現実的になりますね」
アーサー「これらの文書を見ると、劇中で響くフレーズに出くわすことが多いのが印象的です」

アダム・ペンフォード(演出家・劇場芸術監督)「当時、ジョージ3世は狂人だと思われていましたが、何故かはわかっていなかった。のちに、王の尿が青かったことからポルフィリン症のせいだと言われるようになりました。最近では、ある種の神経衰弱と見られていますが、若い頃のジョージは、かなりの自然体だったという説があります。君主になるために家庭教師から教育を受けた際には、もっとしつけがよく厳格になるよう教わったんです。そして現在は、おそらく長年の抑圧が原因で精神的に衰弱したと考えられています」

「ベストを持ってこい!」

アーサー「これは目を見張りますよ。最悪な治療について淡々と記述したものです」
マーク「『夜間、陛下は落ち着きなく混乱した状態になり、ベッドから飛び起きて、他に随分と動揺していた。朝の5時頃になると、陛下は制御出来なくなり、ベストを着用しなければならなくなった。』ここが僕のお気に入りだ。『両足は縛られ、胸の上で拘束されており、朝のお見舞いに伺うと陛下はこの憂鬱な状況の中にいた』」

アダム「君主制はその性質上、演劇的なものです。王族は表現を与えてくれる。劇場、音楽、衣装、小道具、演出、すべてが象徴になるんです」

アダム「ノッティンガム・プレイハウスのホワイエにいます。子供の私が1980年代、初めてパント劇を見に来た劇場です。観客席はかなり大きく、すべて取り付けると770席になります。ノッティンガム・プレイハウスはプロデュース劇場で、それはほとんどの作品を実際の劇場の中で、自分たちで作ることを意味します。私たちには、最近では多くの劇場が持っていない製作部門があります。それに衣装部、小道具部、大道具部、そしてそれらの仕事をこなす高い技術を持ったスタッフがいます。背景のいくつかは、セントポール寺院の位置の特定に役立ったカナレットの絵画を基にしています。そして公演は舞台となった摂政政治時代の織物から作られたものではなく、プリントされた幕で始まるのです」

「小道具部にやってきました。この部屋は大好き。いつだって見ていて楽しいものがあります。パント劇のネズミ…生首は役者の一人がモデルで、『復讐者の悲劇』で使われていたと思います」
「ジョージ3世は私たちにとって大きな公演です。大勢の出演者に、多彩な場面…平均的な芝居よりはるかに多い。ありがとう、アラン・ベネット。シェイクスピア劇に似てなくもないですね。大規模な共演の宮廷シーンかと思えば、次の瞬間にはもっと親密で家族内の2人のシーンにまで小さくなる。

王妃「言いたいことはないの、陛下?」
ジョージ3世「何を言えと? 結婚して28年、一度も離れたことはなかった。1日さえも。そして余を苦しめる奴らに捨て置いたんだ。恩知らずめ!…それが言いたいことだ」

デブラ・ジレット(シャーロット王妃役)「確かに男の世界ですね。彼女の立ち位置は結婚している相手のそば。王妃はかなり怒りっぽいと思います。人が彼女をどう思うかちっとも気にしていない。それがあったからこそ、彼女はこの世界で長く生き延びることが出来たのだと思います。彼女には数人の親しい友人がいて、(サラに向かって)劇中ではあなたが唯一の友人」
サラ・パウウェル(レディ・ペンブルック役)「第一女官は非常に特権的な役割です。彼らは温厚で、多くの問題を解決しています」
デブラ「世話焼きで感情的な知性も持っているんです。深く考えていて…」
サラ「それに王妃には子供が15人! 15人ですよ! 彼女って身体的に…」
デブラ「小さいけど強いの」
サラ「身体的にとても強いんだわ!」

アーサー「これは王妃が受け取った手紙で、こちらの手紙は王妃から王へ送られた完全なる普通の手紙なので選びました。手紙は『Sir』で始まりますが、その後は…」
マーク「『陛下のお手紙の到着に1時間前の私ほど喜んで驚いた者はおりません。水曜日夜にご帰還の陛下を抱きしめお喜びするのを苛立ちながらお待ちしております』
口述的な手紙ですが、ジョージと入るところには陛下と書かれていますね?」
アーサー「ええ」
マーク「素敵だな」
アーサー「締めくくりもいいですよ」
マーク「『陛下の最も愛情深く愛着のある妻、シャーロット』」

王妃「ジョージ、息子を摂政にする法案が準備されているの。私の言うことが分かる? あなたの代わりに統治するために!」
王「摂政?(笑) 太った息子か。いやいや、ありえない」

マーク「『世界がひっくり返った』と言う言葉は味わいがありますね。それに当然、それは定期的に起こる。安定があって、それから帝国は崩壊。そしてすべては争いとなる。チャンスはないと思っていた野党が垂木の中に身を潜めて襲いかかる準備をする。ウェールズ公は王になりたくて仕方ない。すべてが変わろうとしている」

アダム「私がこの作品を書いた1990年、明確な権力はウェールズ公にあった。彼曰く『皇太子は紳士の職業だ』。そしてチャールズ皇太子にも言えることだ。1990年も現在も」

ジョージ3世「いやだ、いやだ…」
王妃「ダメよジョージ!」

アラン「誰かが最近、この芝居を完璧なブレクジットのメタファーだと表現しました。ブレクジットは私たちの国民的神経衰弱、そして王は国家を体現している」

マーク「まるで数年前の国民投票前のよう。1週間ニュースが溢れかえっていた。驚異的でしたね。頭がクラクラして、毎日何かしら起こっていて(笑)『お願いやめて!』って言いたくなる」

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